今回も当院の療法士さんからの投稿です。
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筋肉強化
いつもの通勤の朝、喜志駅で私が最も影響を受けた師に突然会い、駆け出しの頃を思い出していました。理学療法は戦後、米国より導入され、東京、福岡に国立の養成校ができ、外人が授業を行いましたが、当時を知る数少ない先生です。
最近、筋肉をつけなあかんとか、ストレッチが足らんとか、患者様の声を良く耳にします。 また80歳を過ぎても20年来の筋肉増強の結果、背中のこわばりで夜も眠れないとか、毎日2万歩近く歩いて足の痛みを訴え、なんとかしてと来られる方なども目につきます。 すぐに止めてくださいというと、今更止められないとか、おまけに注射は癖になるやろ、薬は飲みたくないねんとか、情報過多の今日、いろんな情報が飛び交って、結局大切な体を壊す事が無いように、筋力強化について整理してみたいと思います。
理学療法は運動療法、物理療法、日常生活動作の三本柱より構成されており、運動療法の中に筋力増強訓練と筋伸張訓練があります。当院の場合、患者様が受診されますと、院長が診断の上、必要に応じて、物理療法、運動療法、動作訓練等の処方が出されます。
診断は医師以外行ってはならないと法律に規定されていますので、理学療法では処方に基づく検査測定を含めた評価後に実施計画を立て、運動療法の全身調整・リラクゼーション・神経筋再教育訓練・関節可動域訓練・筋伸張訓練・筋力増強訓練・筋持久力訓練・協調性訓練の中から症状に合わせて使い分けながら実施していきます。 息・食・運・想・環は人間が健康に生きるための大原則ですが、息の呼吸を含む全身調整が重要で筋力増強や筋伸張訓練は後に続きます。なぜ後かと言いますと、Hettinger&Mullerによると筋力は20~30%あれば日常生活が可能で増えも減りもしないが、長期臥床等で20%以下では筋力低下による寝たきりになるとあります。例えば、寝たきりの人を歩かせるためには、介助歩行や平行棒の中で歩かせるうちに筋力が20%を超えますので後は時間の問題で歩行可能になります。またひとつの動作を行うには主動作筋・協同筋・固定筋・拮抗筋の役目をする筋肉が必要で、全てが正常に作動して初めて正しい動きが可能になります。わかりやすく例えるなら、ビルの屋上から物を吊り上げる際に、ビルの壁面に当たらないように下から、横四方からも力を加えながら引き上げていく感じです。従って一部の筋力だけ強くしても、意味が無いと言うことになります。
膝の痛みで処方される大腿四頭筋が強すぎて、拮抗筋であるハムストリングスに肉離れを起こす例もあります。また機能訓練という言葉は理学療法でよく使いますが、これは実際の場面を想定して指導する意味があります。例えば高齢者の特徴として強い筋しか使わない傾向を目にしますので、立てない人には背筋の使い方に時間をかけるとか、あるいは腰痛の人には腹筋の使い方を充分教えるとか
最後に、医院によっては、腰痛で動けないと受診しても腰痛体操の指導や、膝の痛みに膝周囲筋強化を指導される所も数多くありますので、患者様の中には痛くても我慢して体操や筋力増強をやればいいのではと聞かれる場合もありますが、五十肩の例から考えれば自主トレの時期を間違って痛みが増した例も多くあります。過ぎたるは猶及ばざる如しということわざがありますが、大切なお体を守るために、その場で納得いくまで聞いていただきたいと思います。
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整形外科の世界でも、腰や肩、膝に対して運動療法をおこなうことの有用性については十分に認められています。実際の現場では医師が直接患者さんに運動療法を指導する時間はなかなかなく、そのかわりに医師の指示のもと、運動療法をおこなってくれるのが理学療法士、作業療法士の皆さんです。今まで何人もの療法士さんと一緒に仕事をしてきましたが、どの皆さんもまじめで熱心であり、それぞれが研鑽を積んで、それぞれの持論ややり方を身につけています。私は、大筋の方針は伝えますが、細かいことについては療法士の先生が信頼できる方であればお任せするようにしています。とはいえ当たり前ですが診療終了後、その日の患者さんの状況については必ず療法士から報告を受けて、その後の方針の確認のためのカンファレンスを行って、必要があれば修正指導を行うようにしています。